退職金の所得税・住民税はどう優遇されている?退職所得控除の計算と「退職所得の受給に関する申告書」を社労士事務所がAIで自動化する方法
「退職金には税金がかなりかかるんじゃないか」と心配する従業員がいる一方で、実際に計算してみると給与や賞与よりもかなり優遇された税額になることがほとんどです。この優遇の仕組みと、計算の元になる「退職所得控除」を正確に説明できるかどうかは、顧問先からの信頼に直結します。
退職金の優遇は、①退職所得控除で一定額を非課税にする、②残りの金額をさらに2分の1にして課税対象を圧縮する、という2段階の仕組みで成り立っています。さらに、会社側が「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っているかどうかで、源泉徴収の方法が大きく変わります。
この記事では、退職金の所得税・住民税の優遇の仕組みを国税庁の公式情報にもとづいて整理したうえで、後半では顧問先ごとの退職金計算と申告書の管理を、AI社員AIKATAに任せて自動化する方法を解説します。
01 DEDUCTION 退職金の優遇①:退職所得控除で一定額を非課税にする 勤続年数が長いほど、非課税になる金額が大きくなる
退職金にかかる所得税・住民税は、退職金の全額に対してかかるのではなく、まず退職所得控除という大きな非課税枠を差し引いた残りに対して計算されます。
📚 用語解説
退職所得控除:退職金から非課税で差し引くことができる金額。勤続年数が20年以下の場合は「40万円×勤続年数」(80万円に満たない場合は80万円)、20年超の場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で計算する。勤続年数に1年未満の端数がある場合は切り上げて1年として数える(出典: 国税庁)。
| 勤続年数 | 退職所得控除額の計算式 | 控除額の例 |
|---|---|---|
| 20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) | 勤続10年: 400万円 / 勤続20年: 800万円 |
| 20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) | 勤続30年: 800万円+70万円×10=1,500万円 / 勤続35年: 800万円+70万円×15=1,850万円 |
この表からわかるように、勤続20年を境に、1年あたりの控除額が40万円から70万円に増える設計になっています。長期勤続者ほど、退職金の非課税枠が大きく優遇される仕組みです。
1-1. 具体例で確認する:勤続14年3ヶ月の場合
たとえば勤続14年3ヶ月で退職した従業員がいる場合、1年未満の端数(3ヶ月)を切り上げて勤続年数は15年として計算します。20年以下にあたるため、退職所得控除額は40万円×15年=600万円です。退職金が500万円であれば、控除額600万円を下回るため、退職所得の金額は0円となり、所得税・住民税はかかりません。
一方、同じ勤続15年で退職金が900万円だった場合は、控除額600万円を差し引いた残り300万円をさらに2分の1にした150万円が退職所得の金額になります。退職金の額そのものではなく、控除後・2分の1後の金額に税率がかかるという順序を、顧問先への説明の際に取り違えないことが重要です。
1-2. 「退職金控除額」をそのまま使えない3つのケース
顧問先や従業員が「退職金控除」「退職金控除額」と呼んでいるものは、税法上の退職所得控除のことです。呼び方が違うだけで中身は同じなので、顧問先への案内文では「退職所得控除(いわゆる退職金控除)」と並べて書いておくと、担当者も従業員も迷いません。
上の表の式で出した退職金控除額が、そのままでは使えないケースがあります。国税庁は、障害者になったことが直接の原因で退職した場合は控除額に100万円を加えること、前年以前に退職金を受け取ったことがある場合や同じ年に2か所以上から退職金を受け取る場合は控除額の計算が変わることがあると案内しています(2026年10月時点・国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。
| ケース | 控除額の扱い | 事務所が確かめること |
|---|---|---|
| 障害者になったことが直接の原因で退職した | 上の式で出した額に100万円を加える | 退職の理由と、障害者に当たるかどうか |
| 前年以前に退職金を受け取ったことがある | 勤続期間が重なる部分の控除額を差し引くため、控除額の計算が変わる | 「退職所得の受給に関する申告書」の、前の退職金の記載欄 |
| 同じ年に2か所以上から退職金を受け取る | 後から支払う会社が、先に支払われた退職金と合計し、最も長い勤続期間を基準に重ならない期間を足して控除額を計算する | 申告書への他社の支払額などの記入と、支払済みの「退職所得の源泉徴収票」の添付 |
同じ年に2か所以上から受け取るケースでは、後から支払う会社が出す源泉徴収税額は、合計で計算した税額から先に源泉徴収された額を差し引いた額になります(2026年10月時点・国税庁「No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」)。転籍や出向の解除で、同じ年に2社から退職金が出る顧問先では、先に支払った会社の源泉徴収票を本人から受け取る段取りを決めておきます。
とくに確定拠出年金の老齢一時金は退職所得とみなされるため、先に一時金を受け取っている従業員は、勤続期間の重なりを調整する対象になることがあります(調整の期間が延びた改正は第4章の4-2で説明します)。顧問先からのヒアリングでは、勤続年数と退職金の額だけでなく、過去の退職金・一時金の受け取りの有無を毎回の確認項目に入れておくと、控除額の誤りを防げます。
02 HALVING 退職金の優遇②:残額をさらに2分の1にする「2分の1課税」 給与所得にはない、退職所得だけの特別な仕組み
退職所得控除を差し引いた残りの金額は、さらに2分の1にしてから税額を計算します。これが退職金の税負担を大きく軽減している最大の理由です。
📚 用語解説
退職所得の計算式(原則):(退職金の額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額。この退職所得の金額に対して所得税・住民税の税率を適用する。給与所得や事業所得にはこの「×1/2」の仕組みがなく、退職所得だけに認められた優遇措置である(出典: 国税庁)。
たとえば勤続25年・退職金1,500万円の従業員であれば、退職所得控除額は800万円+70万円×5年=1,150万円となり、残りの350万円をさらに2分の1にした175万円が退職所得の金額になります。この175万円に対して所得税・住民税の税率が適用されるため、実質的な税負担は給与として受け取る場合よりもかなり小さくなります。
2-1. 退職所得は原則「分離課税」
退職所得は、給与所得や事業所得など他の所得と合算せず、単独で税額を計算する「分離課税」が原則です。他の所得と合算する「総合課税」とは異なり、退職金が多額でも他の所得の税率を引き上げる影響を与えません。
2-2. 一時金か年金かで、退職金の課税方法が変わる
ここまでの退職所得控除と2分の1課税は、退職金を一時金で受け取る場合の課税方法です。勤務先から受け取る退職金のほか、社会保険制度などから退職を理由に支給される一時金や、確定拠出年金の老齢給付金として受け取る一時金も退職所得とみなされます(2026年10月時点・国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。
一方、企業年金を年金として分割で受け取る場合は、退職所得ではなく「公的年金等」の雑所得になります。過去の勤務にもとづいて使用者だった者から支給される年金や、確定給付企業年金法にもとづく年金がこれに当たり、収入金額から公的年金等控除額を差し引いて所得を計算します(2026年10月時点・国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」)。公的年金等控除額は年齢と年金の収入額で変わるため、金額は国税庁のページで確認してください。
| 受け取り方 | 所得の区分 | 計算の仕方 | 事務所が確かめること |
|---|---|---|---|
| 一時金 | 退職所得(分離課税) | (収入金額-退職所得控除額)×1/2 に税率をかける | 勤続年数・役員かどうか・申告書の提出 |
| 年金(分割) | 公的年金等の雑所得 | 収入金額-公的年金等控除額 | 退職金規程・年金規約で年金での受け取りを選べるか |
| 一時金と年金の併用 | 一時金の部分は退職所得、年金の部分は雑所得 | それぞれ別に計算する | 一時金と年金に分ける金額 |
どちらが有利かは、従業員の年齢やほかの所得によって変わります。社労士事務所としては「一時金のほうが得です」と言い切らず、退職金規程や年金規約で選べる受け取り方と、計算に要る数字(勤続年数・一時金の額)をそろえたうえで、税額の判断が要る相談は税理士につなぐ線引きにしておくと安全です。
退職金規程や年金規約で年金形式の受け取りを選べる顧問先では、一時金と年金形式で「所得の区分」「差し引く控除」「税額が決まる時期」が変わる点を、従業員が理解できる言葉で1枚にまとめておくと相談が進めやすくなります。年金形式の場合は、上の表のとおり年金の収入金額から公的年金等控除額を差し引いて所得を出すため、一時金のように退職時の1回の計算では終わらず、受け取る年ごとに税額が決まります。この記事の5-2のシミュレーションは一時金で受け取る場合の計算なので、年金形式を選ぶ従業員には同じ表をそのまま渡さないようにします。
03 DECLARATION FORM 「退職所得の受給に関する申告書」を出さないと一律20.42% 申告書の提出有無で、源泉徴収の方法が大きく変わる
退職所得控除・2分の1課税という優遇を受けるには、退職者が会社に対して「退職所得の受給に関する申告書」を提出していることが前提になります。
📚 用語解説
退職所得の受給に関する申告書:退職手当等の支払を受ける時までに、退職者が勤務先に提出する申告書。この申告書を提出している場合、会社は退職所得控除・2分の1課税を適用したうえで正しい税額を源泉徴収し、原則として受給者は確定申告が不要になる(出典: 国税庁)。提出していない場合、退職金の収入金額から一律20.42%の所得税等が源泉徴収される。
申告書の提出がない場合、会社は退職金の額にかかわらず一律20.42%の所得税等を源泉徴収しなければなりません。本来の優遇後の税額よりも多く徴収されてしまうため、受給者は後日確定申告を行って差額の還付を受ける必要が生じます。顧問先の退職手続きでは、この申告書の提出漏れが従業員にとって一時的な過払いにつながる点を案内しておく必要があります。
退職金の支払いが近づいたタイミングで、顧問先の担当者がこの申告書の提出状況を必ず確認する運用にしておくことが、従業員の過払いを防ぐポイントです。
3-1. 「退職所得の源泉徴収票」の作成・提出も必要
📚 用語解説
退職所得の源泉徴収票:会社が退職金を支払った際に、退職者本人に交付するとともに、税務署にも提出する書類。令和8年1月1日以後に支払う分は原則として受け取った全員分を税務署に出し、市区町村に出す特別徴収票は当分の間、提出を省略できる(2026年10月時点・国税庁「No.7421 「退職所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等」)。退職者の氏名・勤続年数・退職金の額・退職所得控除額・源泉徴収税額などを記載する。退職者が転職先で年末調整を行う際や、確定申告を行う際に必要になる(出典: 国税庁)。
この源泉徴収票は、所得税額を計算した後に手作業で発行することが多い書類です。退職所得控除額の計算を誤っていると、源泉徴収票の記載内容もそのまま誤ってしまうため、控除額・課税対象額の計算と源泉徴収票の作成は、一連の作業として同じ精度で行う必要があります。
3-2. 源泉徴収した税金の納税方法と、源泉徴収票の提出期限
退職金にかかる税金の納税方法は、会社が天引き(源泉徴収・特別徴収)して代わりに納める形です。所得税・復興特別所得税は、退職金を実際に支払った月の翌月10日までに納めます。給与の支給人員が常時10人未満で「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を出している顧問先は、退職金から源泉徴収した税額も特例の対象になり、1月から6月分は7月10日、7月から12月分は翌年1月20日が期限です(2026年10月時点・国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」)。
住民税(退職所得の分)は、退職金を受け取る年の1月1日現在の住所地の市区町村が課税します(2026年10月時点・総務省「平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について」)。たとえば港区は、納入申告書を出し、退職金を支給した月の翌月10日までに納入するよう案内しています(2026年10月時点・港区「退職所得に係る住民税(特別区民税・都民税)の特別徴収について」)。納入申告書の様式や納め方は市区町村ごとに違うため、退職者の住所地の案内で確かめます。
| やること | 相手 | 期限・ポイント |
|---|---|---|
| 所得税・復興特別所得税を納める | 国 | 支払った月の翌月10日まで。納期の特例の承認があれば7月10日・翌年1月20日 |
| 住民税(退職所得の分)を納める | 1月1日現在の住所地の市区町村 | 納入申告書を出して納める。期限は市区町村の案内で確認(港区は翌月10日まで) |
| 退職所得の源泉徴収票を交付・提出する | 退職者本人・税務署 | 退職後1か月以内。税務署の分は、その年の退職者の分をまとめて翌年1月31日までに出してもよい |
源泉徴収票の提出範囲は変わっています。令和8年1月1日以後に支払う退職金は、原則として受け取った全員分の退職所得の源泉徴収票を税務署に出します(令和7年12月31日以前に支払う分は、法人の役員の分に限られていました)。一方、市区町村に出す特別徴収票は、令和8年1月1日以後に支払う分について当分の間、提出を省略できます(2026年10月時点・国税庁「No.7421 「退職所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等」)。役員以外の退職者でも税務署への提出が要るようになったため、顧問先の退職手続きの確認表を今の範囲に合わせて見直しておくと安全です。
3-3. 退職金の支払日を決め、提出・納付の期限を年間業務カレンダーに入れる
退職金を退職日からどのくらい後に払うかは、退職金規程の定め方で顧問先ごとに違います。支払日の定めがないと、退職から時間がたってから本人に請求されて払う形になりがちです。退職金の請求権の消滅時効は5年で、賃金の請求権の時効が延びた2020年4月の改正の後も変わっていません(2026年10月時点・厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A「賃金請求権の消滅時効は、どのように変更されたのでしょうか?」)。退職から時間がたつほど本人と連絡が取りにくくなり、「退職所得の受給に関する申告書」を支払いまでに受け取れないおそれが大きくなるため、規程に支払日を決めておくよう顧問先に勧めておくと安全です。
支払日が決まっている顧問先では、その日から逆算して、申告書の案内と回収、税額の計算、支払い、納付、源泉徴収票の交付までの日付を1件ごとに決めます。納付と源泉徴収票の交付の期限は3-2の表のとおりで、納期の特例の承認を受けている顧問先かどうかで納付の月が変わります。
退職は年の途中のいつ起きるか読めませんが、税務署にまとめて出す退職所得の源泉徴収票の期限や、納期の特例の納付の期限は毎年同じ時期に来ます。顧問先ごとの年間業務カレンダーにこれらの期限を入れておき、退職者が出た月にその顧問先の欄へ1件ずつ足していくと、年明けの提出の時期に「その年に誰が退職したか」を探し直さずに済みます。あわせて、顧問先の担当者には、退職が決まってから支払い・納付までの流れと、事務所に渡してもらう物を1枚にした手続きガイドを渡しておくと、連絡の行き違いが減ります。手続きガイドには、少なくとも次の項目を入れておきます。
04 EXCEPTIONS 2022年以後の例外:勤続5年以下は2分の1課税が制限される 役員とそれ以外の従業員で、ルールが異なる
2021年度税制改正により、令和4年(2022年)分以後の所得税について、勤続年数が5年以下の役員等以外の退職者にも2分の1課税の適用に制限が設けられています。役員等の特定役員退職手当等は、それより前の平成24年度税制改正により、平成25年(2013年)分以後の所得税から2分の1課税が適用されていません(2026年10月時点・国税庁「特定役員退職手当等Q&A」)。役員かどうかで扱いが異なります。
| 区分 | 対象 | 2分の1課税の扱い |
|---|---|---|
| 特定役員退職手当等 | 役員等で勤続年数5年以下の人 | 退職所得控除後の全額が課税対象(2分の1課税は適用されない) |
| 短期退職手当等 | 役員等以外の従業員で勤続年数5年以下の人 | 退職所得控除後の金額のうち300万円以下の部分は2分の1課税を維持し、300万円を超える部分は2分の1課税が適用されない |
📚 用語解説
短期退職手当等:役員等以外の従業員で勤続年数が5年以下の人に支払われる退職手当等。退職金の額から退職所得控除額を控除した残額が300万円以下の部分については従来どおり2分の1課税が適用されるが、300万円を超える部分には適用されない。令和4年(2022年)分以後の所得税から導入された(出典: 国税庁)。具体的には、残額が300万円以下なら(残額)×1/2、300万円を超える場合は150万円+{退職金の額-(300万円+退職所得控除額)}で退職所得の金額を計算する。
この例外は、短期間の勤務でも相対的に高額な退職金を受け取るケース(出向者の退職金、早期の契約終了に伴う退職金など)を想定した制度変更です。顧問先の中に勤続5年以下で退職金を支払うケースがある場合、役員かどうかと、退職所得控除後の残額が300万円を超えるかどうかの2点を必ず確認する必要があります。
4-1. 短期退職手当等の計算例
役員等以外の従業員で、勤続4年・退職金500万円のケースを考えます。勤続年数4年は20年以下にあたるため、退職所得控除額は40万円×4年=160万円です。退職金500万円から控除額160万円を差し引いた残額は340万円で、300万円を超えています。
この場合、残額のうち300万円以下の部分(300万円)には従来どおり2分の1課税が適用され150万円、300万円を超える部分(40万円)には2分の1課税が適用されずそのまま40万円となるため、退職所得の金額は150万円+40万円=190万円です。計算式でまとめると、150万円+{500万円-(300万円+160万円)}=190万円となります。勤続年数が短くても、控除後の残額が300万円を超えるケースでは、通常より税負担が大きくなる点を事前に案内しておく必要があります。
4-2. 「退職金課税の強化」「退職金の増税」と言われる見直しの議論
政府は2023年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」で、勤続20年を境に勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増えることが、自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘があるとして、退職所得課税の見直しを行うとしました。同じ日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023」にも、退職所得課税制度の見直しが盛り込まれています(2026年10月時点・内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」、内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023」)。報道などで「退職金課税の強化」「退職金の増税」と呼ばれているのは、主にこの議論です。
ただし、2026年10月時点で国税庁が案内している退職所得控除の式(令和8年4月1日現在法令等)は、第1章の表のとおりで変わっていません(2026年10月時点・国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。一方で、すでに決まった見直しもあります。令和7年度の税制改正で、確定拠出年金の老齢一時金(令和8年1月1日以後に受け取ったもの)がある場合に勤続期間の重なりを調整する期間が、退職金を受け取る年の前年以前4年内から前年以前9年内に延びました(令和8年分以後の所得税に適用)。あわせて、令和8年1月1日以後に支払う老齢一時金に係る「退職所得の受給に関する申告書」の保存期間が7年から10年になっています(2026年10月時点・国税庁「令和8年版 源泉徴収のあらまし」税制改正等の内容)。
令和8年度の税制改正で、令和9年以後は防衛特別所得税が創設され、復興特別所得税の税率の引下げと課税期間の延長が行われますが、両方を合わせた税率は変わらないと国税庁は案内しています(2026年10月時点・国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。令和9年分以後は、納める税の名前も「所得税、防衛特別所得税及び復興特別所得税」に変わります(2026年10月時点・国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」)。顧問先から「増税で源泉徴収の率が変わるのでは」と聞かれたときは、合計の率は変わらない点と、税の名前が変わる点を分けて伝えます。
勤続20年超の控除を縮める課税強化は、2026年10月時点の国税庁の案内には反映されていません。顧問先への説明では、「今の式」「決まった改正」「議論中の案」の3つを分けて伝え、計算に入れるのは決まった改正だけにします。勤続20年を超える従業員が多い顧問先では、改正が決まった時点で影響をすぐ試算できるよう、従業員ごとの勤続年数の一覧を持っておくと対応が早くなります。
05 LOCAL TAX & LIMITS 退職金の住民税は一律10%。計算と確認作業の負荷 所得税の計算が終われば、住民税は比較的シンプル
退職金にかかる住民税(個人住民税)は、所得税と同じ退職所得の金額に対して一律10%(市町村民税6%+道府県民税4%)の税率で計算し、会社が退職金の支払時に特別徴収します。計算の元になる退職所得の金額自体は、所得税と共通です。
これらの作業は、顧問先1社・1人であれば手作業でも対応できますが、顧問先が増え、退職者の勤続年数・役員区分・申告書の提出状況がそれぞれ異なると、確認すべき分岐が掛け算的に増えていきます。次の章では、この計算と確認作業をAIに渡す方法を説明します。
5-1. 役員と従業員の身分が途中で変わっているケースに注意
実務でとくに見落とされやすいのが、勤続期間の途中で従業員から役員に昇格した、あるいは役員を退任して従業員として勤務を続けたというケースです。退任時点の身分だけで短期退職手当等か特定役員退職手当等かを判定すると誤りになる場合があるため、勤続年数のうち役員であった期間がどの程度かを確認したうえで、どちらの例外規定に該当するかを個別に判断する必要があります。顧問先からヒアリングする際は、退職時の身分だけでなく、在籍期間中の役職の変遷も確認項目に加えておくと、判定ミスを防げます。
役職の変遷は、入社日・役員に就いた日・役員を退いた日・退職日を1行に並べて控えておくと、勤続年数のうち役員だった期間がどれだけあるかをすぐに数えられます。事務所が持っている社会保険の資格取得・喪失の記録だけでは役員に就いた日は分からないため、登記の記録や株主総会の議事録など、就任と退任の日が分かる書類で確かめます。
5-2. 所得税・住民税まで出す退職金の税額シミュレーション
所得税・復興特別所得税は、退職所得の金額(課税退職所得金額。1,000円未満は切り捨て)を「退職所得の源泉徴収税額の速算表」に当てはめ、(課税退職所得金額×税率-控除額)×102.1%で計算し、1円未満を切り捨てます。令和8年分の速算表では、195万円以下は税率5%(控除額なし)、195万円超330万円以下は税率10%(控除額97,500円)です(2026年10月時点・国税庁「退職所得の源泉徴収税額の速算表(令和8年分)」)。住民税は、同じ課税退職所得金額に市町村民税6%と道府県民税4%をかけ、税額の100円未満を切り捨てます(2026年10月時点・総務省「平成25年1月1日以降の退職所得に対する住民税の特別徴収について」)。
この記事の計算例と、勤続38年のケースを加えて、退職金にかかる税金をシミュレーションすると次のとおりです(「退職所得の受給に関する申告書」を提出済みで、役員ではない従業員の場合)。
| ケース | 退職所得控除額 | 課税退職所得金額 | 所得税・復興特別所得税 | 住民税 |
|---|---|---|---|---|
| 勤続15年・退職金900万円 | 600万円 | 150万円 | (150万円×5%)×102.1%=76,575円 | 150万円×10%=150,000円 |
| 勤続25年・退職金1,500万円 | 1,150万円 | 175万円 | (175万円×5%)×102.1%=89,337円 | 175万円×10%=175,000円 |
| 勤続38年・退職金2,500万円 | 800万円+70万円×18年=2,060万円 | 220万円 | (220万円×10%-97,500円)×102.1%=125,072円 | 220万円×10%=220,000円 |
上の表の勤続25年・退職金1,500万円のケースで「退職所得の受給に関する申告書」が出ていないと、退職金の額に20.42%をかけた3,063,000円が源泉徴収されます(2026年10月時点・国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」)。正しい税額の89,337円との差額は、本人が確定申告をして精算することになります。シミュレーションを渡すときに、申告書を出した場合と出さない場合の差を並べて見せると、提出を促しやすくなります。
シミュレーションを顧問先や従業員に渡すときは、計算した日・使った速算表の年分・申告書の提出の有無・役員かどうかを必ず書き添えます。勤続5年以下の場合は第4章の短期退職手当等・特定役員退職手当等の計算に切り替わるため、同じ表で済ませないよう注意が必要です。
書き添える4つの項目と、申告書を出した場合・出さない場合の比較の欄を入れたシミュレーションのテンプレートを事務所で1つに決めておくと、担当する職員が変わっても同じ形で渡せます。渡した後に従業員や顧問先から聞かれた質問は、答えと根拠にした公式ページを添えて事務所の回答集にためておくと、次の退職者のときに同じ説明をすぐに出せます。
5-3. 退職金に社会保険料・労働保険料はかかるのか
健康保険・厚生年金保険の保険料は、報酬と賞与にかかります。日本年金機構は、労働の対償として受けるものでない例に退職手当を挙げ、報酬・賞与には当たらないとしています。ただし、退職手当を毎月の給与や賞与に上乗せして前払いする場合は、通常の生計に充てる経常的な収入として報酬等に当たるとしています(2026年10月時点・日本年金機構「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」)。
労働保険(労災保険・雇用保険)の保険料の元になる賃金総額も同じ考え方です。退職を理由に退職時に払う退職金や、事業主の都合などで退職前に一時金として払う退職金は賃金総額に算入せず、在職中に給与や賞与に上乗せして払う、いわゆる前払い退職金は算入します(2026年10月時点・神奈川労働局「労働保険料の算定基礎となる賃金早見表」)。
| 支払い方 | 健康保険・厚生年金保険 | 労働保険(労災保険・雇用保険) |
|---|---|---|
| 退職を理由に、退職時に払う退職金 | 報酬・賞与に当たらない | 賃金総額に算入しない |
| 在職中に給与や賞与に上乗せして払う前払い退職金 | 報酬等に当たる | 賃金総額に算入する |
給与計算ソフトで退職金を給与や賞与と同じ支給項目に入れると、保険料が自動で引かれてしまうことがあります。退職金は退職金用の支給区分で入れ、明細発行の前に、社会保険料と雇用保険料の欄が空いていて、所得税と住民税だけが引かれているかを確かめます。反対に、前払い退職金の制度がある顧問先では、上乗せ分が毎月の報酬や賞与に含まれ、算定基礎届や年度更新の数字に入っているかを見ます。税金と保険料の扱いを1つの確認表で見られるようにしておくことが、退職金をめぐる労務管理の漏れを防ぐ近道です。
06 AUTOMATE THE WORK 【核心】退職金の税額計算をAIで「無人で回る仕組み」にする 効率化ではなく自動化。退職データから税額を自動算出する
6-1. 「AIに聞く」と「AIが計算を回す」は別物
AIに「この人の退職所得控除額はいくらですか?」と聞くのは効率化です。1件ごとの確認が速くなるだけで、勤続年数・役員区分・申告書の提出状況を都度確認する作業自体は人間が続けることになります。
一方、Claude Code/Codexで構築するのは自動化です。「退職が決定した従業員のデータ(勤続年数・役員区分・退職金額・申告書の提出状況)を読み込み、退職所得控除額、2分の1課税または短期退職手当等の例外判定、所得税・住民税額を自動で算出し、申告書が未提出であればアラートを出す」という流れを設計しておけば、顧問先が増えても、毎回同じ精度で計算が行われます。
📚 用語解説
Claude Code/Codex:Claude CodeはAnthropic社、CodexはOpenAI社が提供するAIエージェント。指示を受けてデータの読み込み・集計・突合・判定・文書作成といった作業そのものを実行できる。プログラミング不要で、日本語の指示だけで業務の仕組みを構築できるため、非エンジニアのバックオフィス担当者による業務自動化にも使われている。
6-2. Claude Code/Codexに任せられる作業
| これまで人間がやっていた作業 | Claude Code/Codexに任せた後 |
|---|---|
| 勤続年数から退職所得控除額を手計算(端数処理含む) | 勤続年数データを読み込み、端数処理を含めて控除額を自動算出 |
| 役員区分・勤続5年以下かどうかを個別に確認 | 登録データから短期退職手当等・特定役員退職手当等の該当有無を自動判定 |
| 申告書の提出状況を個別に確認 | 未提出の対象者を自動で抽出し、アラートを表示 |
| 所得税額・住民税額(一律10%)を手作業で計算 | 算出した退職所得の金額から税額を自動計算 |
| 顧問先への税額の説明資料を手作業で作成 | 顧問先・退職者向けの計算結果レポートを自動生成 |
6-3. 社労士法・税理士法の独占業務との線引き
退職金の税額計算そのものは税理士法上の税務相談・税務代理に関わる領域が含まれるため、最終的な税額の確定や税務相談への対応は、必要に応じて税理士と連携しながら先生方が行う業務として変わりません。AIが担うのは、その前段にある退職者データの読み込み・控除額や例外判定の計算・下書き資料の作成までの事務作業です。最終的な税額の確認と顧問先への案内の実行は、必ず事務所側に残ります。
6-4. 「退職所得の源泉徴収票」の下書き作成まで一気通貫で任せる
退職所得控除額・税額の算出だけを自動化しても、退職所得の源泉徴収票の作成が手作業のまま残っていれば、結局は同じ数字を別の書類にもう一度入力する作業が発生します。Claude Code/Codexで仕組みを作る際は、税額の算出から源泉徴収票の下書き作成までを一連の処理としてつなげておくことで、入力の二度手間自体をなくすことができます。
07 BUILD OR DELEGATE 増員・外注・自作では、退職金計算の分岐は片づかない 4つの選択肢のうち3つは、事務所の悩みを別の悩みに置き換えるだけ
| 選択肢 | よくある期待 | 実際に行き詰まる所 | 判定 |
|---|---|---|---|
| ①職員を増やす | 人手が増えれば計算も確認も追いつく | 退職は不規則に発生するため、増員しても待機コストと対応漏れのどちらかが残る | ❌ |
| ②従来型の外注・BPO | 事務所の手を離せる | 顧問先ごとの退職者データを外注先に渡す連絡コストが残る | ❌ |
| ③事務所でAIを自作する | ツールを買えば自動化できる | 控除額の計算式・例外判定ロジックの検証を自前で確立する必要がある | ❌ |
| ④AI社員AIKATAに任せる | 計算・判定・下書き作成をまるごと預けられる | (該当なし) | ✅ |
08 WHAT IS AIKATA AI社員AIKATAとは——事務所の事務作業を丸ごと受託するサービス 増員・外注・自作のどの壁にも引っかからない、4つめの選択肢
AI社員AIKATA(AI社員AIKATAを運営する弊社・株式会社GENAI)は、給与計算・勤怠の集計・入退社手続きの書類の下準備・退職金の税額計算の下準備・帳票の作成・顧問先への資料回収や一次対応など、職員がパソコンで行っている事務作業を、AIと人の二重体制で丸ごと受託する業務代行サービスです。
仕組みの構築・運用はAIKATA側が行うため、事務所にAIの知識は不要です。無料相談は60分・オンライン(Google Meet)で、業務の棚卸しと、どこまで任せられるかの整理を行います。契約の義務はありません。全国対応で、NDAを締結し、給与・人事のデータの受け渡し・保管ルールは事務所の規程に合わせて個別に決めます。料金は月額の定額制で、業務量が増えても料金は変わりません。
09 COMPARISON & CONCLUSION 残る道は「作業そのものを任せる」だけ 手作業・ソフトの乗り換え・AIKATA、3つを並べて比較する
| 手作業のまま | ソフトの追加・乗り換え | AIKATAに任せる | |
|---|---|---|---|
| 低頻度業務への対応 | ❌ 久しぶりの案件ほど確認漏れが出やすい | △ 入力は楽になるが判断は残る | ✅ 仕組みに登録済みなら毎回同じ精度 |
| 例外ルールの判定 | △ 職員の記憶に依存 | △ ソフトの設定で一部吸収 | ✅ 登録済みロジックで自動判定 |
| 顧問先への負担 | ✅ ソフト変更なし | ❌ ソフトの乗り換えを依頼する必要あり | ✅ いまのソフトのまま変更不要 |
| 職員の採用・教育 | ❌ 稀な業務ほど教育コストが割高 | △ 操作研修は必要 | ✅ 事務所にAIの知識は不要 |
| 社労士法・税理士法の線引き | ✅ 全部事務所が行うので明確 | ✅ 明確 | ✅ 専門領域は事務所・税理士に残し、事務作業のみ受託 |
9-1. AI社員AIKATAが選ばれる5つの理由
増員・外注・自作・ソフトの乗り換えは、どれも事務所が人か仕組みを抱え続けることになります。作業そのものを手放せる道は、AIKATAに任せることだけです。退職金の税額計算で仕組みを作れば、同じ考え方を年末調整・給与支払報告書・源泉徴収票といった他の定型業務にも広げていけます。
次に退職金の計算が発生する前に、仕組み化を始めませんか
退職金の税額計算は、年末調整や給与支払報告書と同じく、顧問先データを読み込んで判定する事務作業です。
無料相談(60分・オンライン)では、いまの事務所の業務を棚卸しし、どの作業から任せられるかをその場で整理します。次に退職金計算が発生する前に、一度お話しください。
職員を増やす・外注する・AIを自作する・ソフトを替える——どの道を選んでも、集計・入力・確認の作業か、それを回す人と仕組みが事務所に残り続けます。
AI社員AIKATAなら、いまお使いの給与ソフト・手続きソフトはそのまま、顧問先ごとのルールも登録して処理し、事務所に残るのは仕上がりの確認と承認だけです。どの業務から任せられるかは、無料相談(60分・オンライン)でその場で整理します。
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事務所の定型業務を、
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よくある質問
Q. 退職金の税金はなぜ優遇されていると言われるのですか?
A. 退職金は、まず「退職所得控除」という大きな非課税枠を差し引き、残りの金額をさらに2分の1にしてから税額を計算する仕組みになっているためです。給与所得や事業所得にはこの「×1/2」の仕組みがなく、退職所得だけに認められた優遇措置です。また、他の所得と合算しない分離課税が原則であることも、優遇の一因です。
Q. 退職所得控除はどうやって計算しますか?
A. 勤続年数が20年以下の場合は「40万円×勤続年数」(80万円に満たない場合は80万円)、20年超の場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で計算します。勤続年数に1年未満の端数がある場合は、切り上げて1年として計算します。
Q. 「退職所得の受給に関する申告書」を提出しないとどうなりますか?
A. 退職所得控除・2分の1課税の優遇が適用されず、退職金の収入金額から一律20.42%の所得税等が源泉徴収されます。本来の優遇後の税額よりも多く徴収されるため、受給者は後日確定申告を行って差額の還付を受ける必要があります。
Q. 勤続5年以下で退職した場合、2分の1課税は適用されますか?
A. 2022年(令和4年)分以後の所得税については、勤続5年以下の退職者に制限が設けられています。役員等の場合(特定役員退職手当等)は退職所得控除後の全額が課税対象になり、2分の1課税は適用されません。役員等以外の従業員の場合(短期退職手当等)は、控除後の残額のうち300万円以下の部分は2分の1課税が維持され、300万円を超える部分には適用されません。
Q. 退職金にかかる住民税はいくらですか?
A. 所得税と同じ退職所得の金額に対して、一律10%(市町村民税6%+道府県民税4%)の税率で計算します。会社が退職金の支払時に特別徴収します。
Q. 退職所得は確定申告が必要ですか?
A. 「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出している場合は、会社が正しい税額を源泉徴収することで課税関係が終了するため、原則として確定申告は不要です。申告書を提出していない場合は、一律20.42%の源泉徴収となるため、正しい税額との差額の還付を受けるために確定申告が必要になることがあります。
Q. 社労士事務所が退職金の税額計算をAIに任せても、税理士法上問題ありませんか?
A. 最終的な税額の確定や税務相談への対応は、必要に応じて税理士と連携しながら対応する領域であり、事務所や税理士が行う業務として変わりません。AI社員AIKATAのようなサービスに任せる場合も、AIが担うのは退職者データの読み込み・控除額や例外判定の計算・下書き資料の作成までの事務作業で、最終的な税額の確認と案内の実行は、常に事務所側(必要に応じて税理士と連携)が行います。
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